4. 焚き火の日
 スウェーデンの人たちは、暗く寒い冬の間中、春の訪れを心底心待ちにしている。だから、毎年4月30日には、気持ちの良い春を迎えるため、冬の間たまったゴミを皆で持ちより、一斉に燃やして厄払いのようなお祭りをする。5月1日を春の訪れとし、その前夜祭という意味の言葉で、その日を「バールボリス・メッソ・アフトン(Valborgs Masso Afton)」と呼び、全国各地で大いに祝い喜びあう。トモコはこれを「焚たき火の日」と呼んでいるが、別の呼び方では『ワルプルギスの夜』とも言われるらしい。どちらの言葉も意味は知らない。
 昔からこの日は、毎年6月20日に近い金曜日に催される夏至前夜祭「ミッド・ソンマル」と並び、若者たちにとって唯一ハメを外しても許される特別 な日となっている。彼らは夜通し飲み明かし、歌い踊り、存分に発散する。
 子供たちは、その火でマシュマロなどを焼いて食べている。見ると、私たちが集まっている海辺の入江向こう側でも、大勢の人たちが大きな焚き火を囲んで騒いでいるようだ。
 我々も例にもれず、会の終焉後スティーグの友人宅に招かれ、その騒ぎに紛れ込んだ。集まった人たちは皆、スティーグの高校時代からの友人や、彼が昔ヒッピーをしていた頃の仲間だ。スティーグは、今でこそフリーのCGデザイナーという職を持っているが、かつては自由なヒッピーであったらしく、仲間たちと東南アジアあたりを随分とうろついたそうである。その仲間も、今ではヒッピーの象徴であった髭を剃り、大きな太鼓腹がトレードマークになったと言う。
 そんな彼ら4人でボロ車に乗り、インドまでバックパッカーの旅をした時の話しなどは実に愉快であった。スティーグは、今でも時々インドへ行ってはヒッピーの延長のような放浪をしているらしく、普段でさえ実に気ままなライフスタイルを保っている。




目次
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プロローグ
第一章 旅立ちの時
- ストックホルムの光と影
 - この国との出会い
 - 晴天の雲の下
 - バックパッカー デビューの日
 - 袖すれあう旅の縁
 - 百年前の花屋は今も花屋
 - 郷愁のガムラスタン散歩
 - バルト海の夕暮れ
 - 船室での一夜
 - これぞ究極のアンティーク
 - 古(いにしえ)の里スカンセン
 - 過信は禁物-1[ストックホルム発・ボルネス行 列車での失敗]
 - そして タクシー事件
 
第二章 解放の時
- 森と湖の都ヘルシングランド
 - 森の木に抱かれて
 - 静かなる自然の抱擁
 - 小さな拷問
 - 私は珍獣パンダ
 - ダーラナへの道-左ハンドルのスリル-
 - Kiren
 - 故郷の色"ファールン"
 - ダーラナの赤い道
 - ダーラナホースに会いにきた
 - ムース注意!
 - 白夜の太陽
 - 過信は禁物-2[ボルネス発・ルレオ行 またも列車での失敗]
 
第三章 静寂の時
- 北の国 ルレオでの再会
 - 雪と氷のサマーハウス
 - 白夜の国のサマーライフ
 - 焚き火の日
 - ガラクタ屋とスティーグ
 - ミスター・ヤンネ と ミセス・イボンヌ
 - 田んぼん中の"ラーダ"
 - 中世の都 ガンメルスタード
 - 余情つくせぬ古都への想い
 - 流氷のささやきに心奪われ
 - 最後の晩餐-ウルルン風-
 - 白夜の車窓にて
 - ストックホルムのスシバー
 - 旅のおまけ["モスクワ"フシギ録]
 




	
	
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